クリニックの経営や将来的なM&Aを見据えて、MS法人(メディカル・サービス法人)の設立を検討する医師・歯科医師も増えています。医療法人では行えない事業に挑戦する、経営リスクを分散させる、あるいは節税を目的に、MS法人は重要な選択肢となり得ます。
この記事では、「MS法人とは何か」、「医療法人との違い」、さらに「設立するメリット・デメリット」について詳しく解説します。特にクリニック経営者が抱える課題に焦点を当て、分かりやすくお伝えしていきます。
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MS法人とは?
MS法人とは、「メディカル・サービス法人」の略で、医療法に規制される医療法人とは異なる、一般法人(株式会社や合同会社)の一形態です。MS法人は医療行為を行わないため、医療法に縛られず、病院運営を支援する会計業務、人材派遣、医療器具の販売などの事業が可能です。
医療法人は「非営利性の原則」に従わなければならないため、利益を目的とする事業が制限されます。しかし、MS法人を設立することで、医療法人が担えない業務を分担し、経営の効率化や事業の拡大を図れます。
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MS法人と医療法人の違い
MS法人と医療法人の違いは、以下の3点が主な特徴です。
1. 設立目的と法規制
- 医療法人:病院・診療所の運営が目的で、非営利性を求められる
- MS法人:医療以外の業務も含め、営利目的の事業が可能
2. 資金調達の自由度
- 医療法人:株式や社債の発行が不可
- MS法人:自由な資金調達が可能
3. 業務の範囲
- 医療法人:医療行為や保険診療に限定
- MS法人:医療機器の販売、人材派遣など幅広い業務が可能
これらの違いを理解することで、経営目標に応じた法人形態の選択が重要になります。
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MS法人の5つのメリット
1. 所得の分散
MS法人を活用することで、医療法人や個人の所得を分散でき、累進課税の負担を軽減する効果が期待できます。たとえば、医師・歯科医師の家族をMS法人の役員にして報酬を分配することで、所得税の節税が可能です。
2. 経営の分離
医療法人の業務の一部をMS法人に移管することで、経営と診療の分離が可能になります。経営の透明性が高まり、万が一のトラブル時にもリスク分散が図れます。
3. 規制のない事業展開
医療法人では規制される医療機器の販売や美容商品の取り扱いも、MS法人であれば自由に行えます。これにより、事業の多角化や収益拡大が可能になります。
4. 資金調達の拡大
MS法人は、株式発行や融資を活用した資金調達が可能です。医療法人では難しい資金調達ができるため、事業の展開や設備投資に活かせます。
5. 相続対策
医療法人は後継者が医師・歯科医師である必要がありますが、MS法人なら親族に承継可能です。これにより、後継者問題の解消やスムーズな相続が期待できます。
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MS法人の5つのデメリット
1. 税務否認リスク
MS法人と医療法人の取引が不適切だと税務調査で否認され、追徴課税のリスクがあります。たとえば、不当な価格設定が税務署に認められないケースが考えられます。
2. 役員の兼務ができない
医療法人の役員とMS法人の役員の兼務は禁止されており、新たな代表者を立てる必要があります。これは、医療法人の非営利性を守るための規制です。
3. 薬機法の知識が必要
医薬品や医療機器の販売を行う場合、薬機法の遵守が求められます。MS法人を設立する前に、法規制に詳しい専門家のサポートが重要です。
4. 消費税の増加
MS法人での取引には消費税が発生するため、経費が増える可能性があります。これは医療法人にはないコストとなるため、事前のシミュレーションが必要です。
5. 運営コストが増加
MS法人を運営するためには、人材の確保や経費がかかります。運営コストが増えるため、十分な計画を立てることが求められます。
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MS法人の活用事例
- 歯科クリニックの会計業務をMS法人に委託し、医師・歯科医師が診療に専念
- 美容商品や医療機器の販売を通じて、新たな収益源を確保
- 親族をMS法人の代表に任命し、税制面と相続面でのメリットを享受
これらの活用事例を通じて、医療法人の制約を超えた柔軟な経営が可能になります。
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まとめ MS法人の設立やM&Aは専門家に相談が大切
MS法人は、医療法人のデメリットを補完し、経営効率を向上させるための有力な手段です。しかし、税務リスクや運営コストの増加といったデメリットもあるため、設立を検討する際は慎重な判断が求められます。
特にM&Aや相続を見据えた経営戦略を立てる場合は、専門家のアドバイスを受けることが不可欠です。クリニックの将来を見据えた賢い選択をするためにも、まずは専門家や税理士、弁護士に相談することをおすすめします。
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この記事を参考に、MS法人の設立があなたのクリニック経営に役立つかどうか、ぜひ検討してみてください。