M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称であり、企業の合併(Mergers)と買収(Acquisitions)を指します。医療業界においては、他の医療機関や関連企業との経営統合や買収を指します。これにより、医療サービスの拡充や経営効率の向上が期待されます。
売り手側からみたM&Aの目的は、他社に引き継ぐ(売却する)ことにより、医療サービスを存続・発展させることです。また買い手側からみたM&Aの目的は、他社を譲り受ける(買収する)ことで、市場シェアの拡大に伴う患者様の獲得や周辺事業への展開をすることです。
売り手・買い手の双方がM&Aの目的を実現するためには、相性が良くシナジー(相乗効果)を発揮できる相手先を選定し、適切な価格でM&Aを実施することが重要なポイントの一つです。
M&Aの目的・メリット
医療業界におけるM&Aの主な目的は、医療サービスの質の向上、患者へのアクセスの拡大、経済的な効率化などです。メリットとしては、診療や治療の連携強化、施設や機器の共有、経営資源の最適活用などが挙げられます。
引き継ぐ側のメリット
1. 事業の成長と発展
M&Aを通じて、企業は新たな市場への参入やサービスの拡充を図り、事業の成長と発展を目指します。これにより、患者への提供サービスの幅や質が向上し、競争力が強化されます。
2. 後継者問題の解決
多くの医療機関では後継者不足が課題となっています。M&Aによって、後継者問題を解決し、継続的な医療サービスの提供を確保することができます。
3. 従業員の雇用継続
M&Aにより統合された企業は、従業員の雇用を継続することができます。これにより、従業員の安定感が確保され、サービスの安定性や質の向上につながります。
4. 個人保証(経営者保証)の解除
個人保証や経営者保証が解除されることで、経営者のリスクが軽減されます。これにより、経営者がより積極的な経営戦略を展開しやすくなります。
5. 創業者利益の確保
創業者や株主の利益を確保することもM&Aの重要な目的の一つです。良好な取引条件や株主価値の向上を通じて、創業者や株主の利益を最大化します。
6. 事業の再生
M&Aを通じて、経営上の課題を抱える企業は事業の再生を図ることができます。経営資源の最適配置や新たな経営戦略の導入によって、事業の持続可能性を高めます。
7. ノンコア事業売却による事業改革
M&Aを通じて、ノンコア事業の売却や事業ポートフォリオの最適化を図ることができます。これにより、企業は事業の特化と集中を促進し、競争力を高めることができます。
譲り受ける側のメリット
1. 売上シナジー
M&Aにより、買い手は売上シナジーを実現することが期待されます。買収した医療機関の患者様のベースや市場シェアを取り込むことで、売上の拡大や収益増加を実現します。
2. コストシナジー
M&Aを通じて、買い手はコストシナジーを追求します。統合による業務効率化や経営資源の最適活用により、コスト削減や生産性向上を図ります。
3. 人材の確保
M&Aにより、買い手は優れた人材の確保を目指します。買収した企業の専門知識や技術を持つ人材を獲得し、自社の競争力強化やイノベーション促進に活用します。
4. リスク分散・財務力強化
買い手はM&Aを通じて、事業リスクの分散や財務力の強化を図ります。多角化経営や新たな事業領域への進出によって、市場の変化や競争のリスクに対する耐性を高めます。また、財務力の強化を通じて、成長戦略の実行や投資活動を支援します。
なぜM&Aを選択する経営者が増えているのか
なぜM&Aを選択する医療機関の経営者が増えているのかには、以下の要因が挙げられます。
1. 中小企業の事業承継の選択肢
多くの医療機関では後継者問題が深刻化しており、事業の継続性を確保するためにM&Aが選択肢として注目されています。経営者は自らの事業の将来を考え、他の医療機関との統合や買収を通じて事業の承継を進めることで、患者へのサービス提供の安定化や経営の持続可能性を確保しようとしています。
2. 買い手側の事情
M&A市場においては、買い手側も積極的に事業拡大や成長戦略の一環としてM&Aを選択しています。医療機関の買収により、市場シェアの拡大や業務効率の向上、患者への提供サービスの充実などが実現されます。
3. 良い売り手がM&A市場に出てくる時代
M&A市場においては、売り手側も良い条件を求める声が高まっています。高齢化や後継者不足などの理由から、優れた医療機関が買手を選定する段階で良い条件を提示することができるため、M&A市場に出てくる売り手が増加しています。
4. 売り手も「金額」「条件」に大きな差が付く時代
M&A市場では、医療機関の買収価格や条件に大きな差が生じることがあります。経営者は自社の価値を最大化し、良い条件で事業を売却するために、市場動向や競合他社の動きを注意深く見極めることが求められます。
よくある医療機関のM&Aの失敗原因と留意点
医療機関のM&Aが失敗する主な原因と、それに対する留意点は以下の通りです。
1. 売り手側のM&A交渉時の心境・想い
売り手側がM&A交渉に臨む際の心境や想いは、次のようなものがあります。
① 高く売りたい
医療機関経営者は、自社の価値を最大限引き出し、高い価格で事業を売却したいと願っています。しかし、過度な価格設定は買手との交渉を難しくし、M&Aの進展を阻害することがあります。
② 早く決着をつけたい
M&A交渉は長期間にわたることがあり、経営者は早く決着をつけて次のステップに進みたいと考えます。しかし、焦り過ぎて良い条件を見逃したり、適切なデューデリジェンスを怠ることが失敗の要因となります。
③ 良いM&Aでありたい
経営者は、M&Aによって自社の事業が引き継がれ、発展していくことを望んでいます。しかし、買手との相性や文化の違いを考慮せずに進めることで、後に問題が発生する可能性があります。
2. 買い手視点でみたM&Aのよくある失敗例
買い手側から見た医療機関のM&Aの失敗例は以下の通りです。
① 買うべきではない医療機関を買う
買い手が適切なデューデリジェンスを行わずに医療機関を買収する場合、経営上の課題やリスクが見落とされる可能性があります。その結果、買収後に問題が浮上し、M&Aが失敗に終わることがあります。
② 高い値段で買いすぎる
買い手が過剰な買収価格を支払うことで、将来的なリターンが見込めない場合があります。適切なバリュエーションとリスク評価を行うことが重要です。
③ PMIで失敗する
買収後の統合プロセス(PMI)が不十分であった場合、買い手は買収企業の価値を最大化できず、事業のシナジー効果を得ることができません。PMIの計画と実行が成功の鍵となります。
M&Aの流れ(売り手側)
医療機関のM&Aの流れ(売り手側)は以下の通りです。
1. M&Aの検討・情報収集
経営者はM&Aの可能性を検討し、市場動向や競合他社の動向を調査します。必要な情報を収集し、M&Aの方針を決定します。
2. M&Aの準備(自社分析・プレDD)/アドバイザーの選任
自社の強みや弱み、経営リスクを把握するために、自社分析やプレデューデリジェンス(プレDD)を実施します。また、専門家やアドバイザーの選任を行います。
<ポイント>
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3. 相手先探し
M&Aの対象となる適切な相手先を探します。市場調査やネットワークを活用し、適切な医療機関を特定します。
4. トップ面談・意向表明
候補となる医療機関のトップと面談を行い、双方の意向を確認します。売り手側は自社のビジョンやM&Aの目的を伝え、買い手側の関心や期待について理解を深めます。
5. M&Aの条件調整・基本合意書の締結
売り手側と買い手側はM&Aの条件を調整し、基本合意書(Letter of Intent)を締結します。基本合意書には、売買価格や条件、予備的な合意事項が含まれます。
6. 買収監査(デューデリジェンス)の実行
買収監査(デューデリジェンス)を実施し、買い手側に対する情報開示を行います。買収対象企業の財務、法務、事業戦略などを詳細に調査し、リスクを評価します。
7. 最終条件調整
デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的なM&A条件を調整します。売り手側と買い手側は合意に達し、契約の条件を最終調整します。
8. 最終契約締結・クロージング(M&Aの実行)
売り手側と買い手側は最終契約書を締結し、M&Aの実行に移ります。契約書には詳細な取引条件や各当事者の義務が明示されます。
9. 関係者への開示(ディスクロージャー)
M&Aの実行に伴い、関係者やステークホルダーに対する開示(ディスクロージャー)が行われます。この過程で情報の透明性を確保し、関係者の理解と協力を得ます。
10. PMI
M&A後の統合プロセス(Post-Merger Integration:PMI)が実行されます。統合計画を立て、人材統合やシステム統合などのプロセスを進め、M&Aの成果を最大化します。
M&Aにおけるソーシング(買い手側)
売却希望案件を紹介してもらう(紹介型M&A)と、潜在的な売り手に能動的アプローチをする(仕掛け型M&A)について説明します。
紹介型M&A(売却希望案件を紹介してもらう)
紹介型M&Aは、経営者やM&Aアドバイザーからの紹介によって、売却希望の医療機関を探す方法です。具体的な手順は以下の通りです。
1. ネットワークの活用
M&Aアドバイザーや業界関係者のネットワークを活用して、売却希望の医療機関を紹介してもらいます。
2. ニーズの明確化
売却希望医療機関のニーズや条件を把握し、適切な買手を探します。
3. 紹介交渉
M&Aアドバイザーを介して、売り手と買い手の間で交渉を進めます。価格や条件などの交渉を行い、合意に達したらM&Aプロセスを進めます。
2. 仕掛け型M&A(潜在的な売り手に能動的アプローチをする)
仕掛け型M&Aは、買い手が能動的に潜在的な売り手にアプローチし、M&Aの機会を提案する方法です。手順は以下の通りです。
1. 市場調査
医療業界の市場調査を行い、売却の意思を示していないがM&Aの機会がある可能性がある医療機関を特定します。
2. アプローチの準備
買い手は売り手に対するアプローチを準備します。アプローチ手段や内容を具体的に計画し、相手の関心を引くような提案を用意します。
3. アプローチの実施
買い手は売り手にアプローチを行います。直接訪問や書面による提案、電話などのコンタクト方法を選択し、慎重かつ誠実にアプローチを行います。
4. 交渉と合意
売り手が興味を示した場合、買い手は交渉を開始し、条件や価格などについて合意を目指します。合意に達したら、M&Aのプロセスを進めていきます。
紹介型M&Aは既に売却意向を示している売り手を対象とするのに対し、仕掛け型M&Aは売却意向を持っていない潜在的な売り手に対してアプローチを行う点が異なります。
まとめ
医療業界におけるM&Aの成功には、地域医療の特性や患者ニーズを十分に理解し、経営文化の適合性や医療サービスの連携強化が不可欠です。常に患者中心の視点を持ちながら、戦略的なM&Aを進めることが求められます。